Q.無料で使える公的教材の全体像 ― どれを何に使うか早見表
10月1日の施行に向けて研修資料を作るなら、まず無料の公的教材でカスハラの定義と対応方針を確認します。相談先や上長を呼ぶ手順は、自館の運用に合わせて補います。
厚労省の全国・全業種向け資料、宿泊業界団体の資料、所在地の自治体資料から、自館の研修で使うものを選びます。公的教材の対応例はロールプレイにも使えます。担当者名や相談先、夜勤中の連絡手順は、自館で決めた内容に合わせて練習します。
そもそもなぜ研修が要るのか、現場感を1つの数字で押さえておきます。UAゼンセンが2024年に約3万人を対象に行った調査では、直近2年でカスハラ被害を受けた人が46.8%にのぼりました。行為の内訳は暴言が最も多く、次いで威嚇・脅迫、同じ内容を繰り返すクレーム、長時間の拘束と続きます。これは流通・サービス業の労働組合による調査で宿泊業に限った数字ではありませんが、上位に並ぶ行為は、ホテル・旅館のフロントや電話で起きる型とそのまま重なります。研修が「念のため」ではなく現場を守る備えである、という位置づけの確認に使えます。
教材は3系統に分けて考える
全国版では定義と対策の基本、宿泊業界団体版では宿泊現場の対応例を確認します。自館所在地の条例・指針も確認し、必要な内容を加えます。
宿泊の業界団体版 ― フロントや客室の対応例を確認
以下の入手先から、研修で使う資料の最新版と利用条件を確認してください。場面別の台本と研修の進め方はカスハラ研修 ホテル・旅館で何を教えるかにあります。
Q.厚労省「あかるい職場応援団」の研修動画 ― 使いどころ
「あかるい職場応援団」は、厚労省が運営するハラスメント対策の情報サイトです。パワハラ・セクハラと並んでカスタマーハラスメントを扱い、「動画で学ぶハラスメント」というコーナーで研修用の動画を無料配信しています。義務化に合わせて、カスハラ対策の動画・資料の改訂が続いています。まず座学の導入で使う教材として、最初に押さえておく場所です。
カスタマーハラスメントの定義、正当なクレームとの線引き、対応の基本的な流れを解説する動画です。カスハラ専用のページに、解説動画がまとまっています。あわせて、リーフレットやポスターなどの資料もダウンロードできます。
座学の導入では、使用する動画の内容と長さを事前に確認し、視聴後にカスハラの判断基準を受講者と確認します。フロントや夜勤の場面では、自館の相談先と交代手順を補います。
動画で学ぶハラスメント: https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/movie/
カスタマーハラスメントの動画: https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/movie/11-2/
資料ダウンロード(リーフレット・ポスター): https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/download/
もう1つ、同じサイトに業種別のカスタマーハラスメント対策の取組を支援するページがあります。業種ごとの実態に合わせた対策の入り口で、宿泊業の担当者も、近い接客業の考え方を参照できます。教材を集める段階で一度目を通しておくと、自館の場面を言語化するときの手がかりになります。
Q.厚労省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」 ― 研修で判断基準を教える
動画で全体像をそろえたら、次に座学の骨子を作ります。その下敷きになるのが、厚労省が2022年(令和4年)に作成した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」です。マニュアルには、カスハラかどうかを判断する2軸と、事前・事後に講じる対策が示されています。座学では、この判断基準と対策を確認します。
カスタマーハラスメントの判断を、(1)要求内容が妥当か、(2)その手段・態様が社会通念上相当か、の2軸で示します。あわせて、企業が事前に取り組む備え(方針の明確化、体制の整備)と、実際に起きたときの対応の枠組みを整理しています。研修で最初に教える「線引き」の型は、ここから取れます。
要求内容と手段・態様の2軸を、研修資料に示します。料理の作り直しを求める場面でも、要求の理由と、どのような言動があったかを分けて確認します。土下座の要求など、社会通念上相当でない言動の例は、厚労省資料を使って説明します。個別の判断では就業環境への影響も確認し、迷った場合の相談先を受講者へ伝えます。
企業マニュアル本体(PDF): https://www.mhlw.go.jp/content/11921000/000894063.pdf
最新版・関連資料は「あかるい職場応援団」の資料ダウンロードからも入手できます。
このマニュアルには、業種ごとの実態に合わせた業種別版も出ています。スーパーマーケット業編(2025年3月)、宅配業編などがそれです。ただし、2026年7月時点で宿泊業編はありません。宿泊の現場に固有の判断、たとえばフロントでの威圧や客室での居座りは、この全国版だけでは埋まらない、と割り切ったほうが正確です。宿泊固有の部分は、次に見る業界団体の資料で補います。
Q.宿泊業向けの資料 ― 業界団体・行政の公開資料
フロントでの威圧、客室での要求、宿泊拒否の判断を扱う場合は、業界団体と行政の宿泊向け資料を確認します。資料の対応例に、自館の相談先と交代手順を補って使います。
宿泊業に絞ったカスタマーハラスメントの定義、基本方針、判断基準、対応例をまとめた業界団体のマニュアルです。詳細版と簡易版の2種類があり、あわせて基本方針の様式や、お客様向け・従業員向けのポスター(A2〜B3の複数サイズ)も無料で提供されています。
宿泊現場の判断と自館の方針を確認する場面で使います。基本方針の様式は、自館名、相談先、責任者、対応手順を確認し、既存の規程と照合してから周知します。ポスターを使う場合も、自館の運用と内容が一致しているか確認してください。
日本旅館協会 カスタマーハラスメント対策ページ: https://www.ryokan.or.jp/top/customerharassment/
JTB協定旅館ホテル連盟の会員施設向けに作られた対応マニュアルのモデル版です。大声での威圧や脅迫的な発言、暴力行為など、宿泊現場で起きる言動への対応が具体的に示されており、ロールプレイの台本を作るときの参照元に使えます。会員向けの位置づけですが、PDFが公開されています。
対応マニュアル(モデル・PDF): https://www.ryoren.ne.jp/SPage/jigyou/annai/file/solution/customer-2_2.pdf
改正旅館業法により、不当な要求を繰り返す客の宿泊を拒める場合が定められました。厚労省の特設ページに、宿泊料の不当な割引の強要、社会通念上相当でない方法での謝罪の要求、長時間の不当な要求といった、宿泊拒否の対象になり得る行為の例が示されています。座学で「客室・館内の要求はどこからが度を超すか」を教えるときの根拠になります。
旅館業法改正 特設ページ: https://www.mhlw.go.jp/kaiseiryokangyohou/
Q.東京都の条例・指針資料 ― 都内施設が押さえるもの
都内の自館では、国の指針に加えて東京都の条例・指針を確認します。都外でも自館所在地の条例・指針を確認し、東京都の資料は参考資料として使います。
東京都カスタマー・ハラスメント防止条例は、2025年4月1日に施行されました。罰則を伴うものではありませんが、都内で就業する労働者を守る枠組みを定めており、都内の施設はこの条例を前提に対応します。
「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」は、条例の各条文を事例つきで解説したものです。本文版に加えてスライド版が公開されており、これは座学の資料としてそのまま流用できます。都内施設は、このスライドから条例の要点を1〜2枚、座学に差し込むのが手早い方法です。
指針(ガイドライン・本文版/スライド版): https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/plan/kasuharashishin/index.html
「カスタマー・ハラスメント防止のための各団体共通マニュアル」は、業界団体が自分たちの業界マニュアルを作るための手引です。自館で基本方針や対応マニュアルを作る際、盛り込むべき共通項目の型として使えます。
東京都は、企業向けのセミナーや専門家派遣、総合相談窓口(電話 0120-182-276)を無料で用意しています。研修を組む前の相談先として使えます。あわせて、都内の中小事業者向けの奨励金もあります。
各団体共通マニュアル: https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/plan/kasuharamanual/index.html
総合相談・セミナー・専門家派遣: https://www.customer-harassment-taisaku.metro.tokyo.lg.jp/
Q.教材を70分の研修に組む ― 座学25分への当てはめ
以下は70分で実施する場合の構成例です。座学25分・ロールプレイ35分・確認テスト10分を目安に、参加者の経験、人数、動画の長さに合わせて配分を変えます。ロールプレイには公的教材の対応例や自館で記録した事例を使い、相談先と交代手順を確認します。
| パート | 時間 | 使う教材 | このパートのゴール |
|---|---|---|---|
| 座学 | 25分 | あかるい職場応援団の研修動画(導入5分)/厚労省 企業マニュアルの2軸判断/日本旅館協会 宿泊業界団体マニュアルの基本方針/都内は東京都指針のスライド版 | 「どこからがカスハラか」と自館の方針を、全員が同じ言葉で言える |
| ロールプレイ | 35分 | 公的教材の対応例や自館で記録した事例。自館の相談先・交代手順を補う | 初動の一言が口から出る。上長を呼ぶラインを体で覚える |
| 確認テスト | 10分 | 企業マニュアルと指針の要点から5問。気づきを1〜2行で記入 | 理解の薄い点を記録に残し、次回に反映する |
教材の入手と自館の情報の確認を、次の順に進めます。ロールプレイの事例は、公的教材の対応例や自館の記録から選び、担当者・連絡先・交代手順を台本に補います。
| やること | 使う教材 | 担当 | |
|---|---|---|---|
| あかるい職場応援団でカスハラ研修動画を選び、視聴環境(会議室のモニタ等)を確認する | 厚労省 研修動画 | 人事・支配人 | |
| 企業マニュアルの2軸判断を、座学スライド1枚に要約する | 厚労省 企業マニュアル | 人事・支配人 | |
| 基本方針の様式を入手し、自館名・相談先・対応手順を確認して既存規程と照合する | 日本旅館協会 版 | 経営層・人事 | |
| (都内)東京都指針のスライド版から、条例の要点を1〜2枚追加する | 東京都 指針 | 人事 | |
| 公的教材や自館の記録から場面を選び、相談先と交代手順を補って練習する | 公的教材・自館の記録 | 各部門マネジャー | |
| 確認テスト5問を、企業マニュアルと指針の要点から作る | 厚労省 資料 | 人事・総務 |
研修後に残す記録と、次回までの宿題
教材を選んだら、研修の担当者が「実施日・担当講師・使った教材と版・参加者・確認できたこと・未受講者への対応」を記録できるようにします。これは自館で研修を振り返るための記録例です。所定の時間数やこの様式だけで、法令上の措置をすべて満たすという意味ではありません。
- 研修前:自館の基本方針、昼夜の相談先、上長への連絡手順を教材に添える。
- 研修中:対応を交代する場面と連絡先を参加者に確認し、迷った点を記録する。
- 研修後:手順を直す担当者と確認日、未受講者へ伝える日を決める。
基本方針や事案を記録する報告書の様式には、BBのカスハラ対策実務マニュアルを参考にできます。研修の実施記録は、上記の項目を使って自館で別途用意してください。
場面別の台本と、相談・交代の練習の進め方はカスハラ研修 ホテル・旅館で何を教えるかで確認できます。
Q.公的教材に自館の相談先と対応手順を補う
教材を選んだら、自館の方針・相談先・交代手順を補います。受講者がその手順を使えるか確かめるため、具体的な場面で声を出す練習も取り入れます。
夜勤中の相談先と交代手順を確認する
公的教材には対応例がありますが、自館の責任者名や夜勤中の連絡先までは記載されていません。教材の例に自館の手順を補い、誰へ連絡するか、誰が対応を交代するかを練習します。困った時点で上長へ連絡できるようにし、可能な限り1人で対応させない体制も確認します。
自館の記録から台本を作る
自館の記録を使う場合は、フロント・電話・客室などの担当者から事例を集めます。発生日時、要求と行為、自館の対応をそろえ、個人が特定されないようにして台本にします。自館の記録が不足している場合は、公的教材の対応例に自館の相談先・連絡方法を補って使えます。
基本方針と対応記録の様式をそろえると、部門間で相談先や事案の経緯を共有しやすくなります。BBの実務マニュアルには基本方針とインシデント報告書のテンプレートを掲載しています。自館の既存書式と照合して使う場合は、下の案内から内容と申込方法を確認してください。
場面別の初動や対応記録はカスハラ研修 ホテル・旅館で何を教えるかで確認できます。外部研修を検討する場合は、カスハラ研修の費用相場と選び方を参照してください。
