宿泊旅行統計調査とは何か

観光庁が毎月実施する「宿泊旅行統計調査」は、国内の宿泊施設から客室稼働率・延べ宿泊者数・外国人宿泊比率などを集計する統計調査です。全国約75,000の宿泊施設が対象で、従業者数10人以上の施設は全数調査、それ未満は標本調査(抽出率約1/3)で行われます。

公表される速報値は2種類あります。第1次速報は調査月の約2ヶ月後に公表され、回収率が低い段階での推計値です。第2次速報はさらに1ヶ月後に公表され、追加回収分を反映するため数値が修正されます。確定値は翌年に年間報告書として公表されます。

約75,000
調査対象 施設数
61.8%
2025年 年間平均稼働率
+2.2pt
前年比(2024年 59.6%)

出典: 観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年 第2次速報値・推移表

2026年1月分から層化基準が「従業者数」から「客室数」に変更されました。対前年比を見る際は、推計方法の変更による影響が含まれる点に留意が必要です。

2026年の月別客室稼働率(速報値)

2026年は1月分から層化基準が変更されたため、前年との単純比較には注意が必要です。現時点で公表されている1〜2月の第2次速報値を施設タイプ別にまとめます。

1月2月前年同月比(1月)前年同月比(2月)
全体52.759.6-1.9-0.6
ビジネスH65.574.0-1.2-0.3
シティH62.869.9-4.1-2.1
リゾートH51.158.4-0.30.0
旅館33.740.1+0.8+3.5
簡易宿所22.425.3-3.0-1.5

出典: 観光庁「宿泊旅行統計調査」2026年2月 第2次速報値。前年同月比は2025年 第2次速報値との差

全体の前年同月比がマイナスに転じていますが、これは層化基準変更(従業者数→客室数)の影響が含まれている可能性があります。観光庁も「見直しの影響が含まれている」と注記しており、3月以降のデータが揃うまでトレンド判断は留保が必要です。旅館だけがプラスに振れている点は、新基準で小規模旅館の捕捉精度が変わった影響も考えられます。

2025年の月別客室稼働率(速報値)

2025年の月別客室稼働率(第2次速報値ベース)です。全体の年間平均は61.8%で、2024年確定値の59.6%から2.2ポイント上昇しました。赤字は年間最高月、青字は年間最低月です。

1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月年間
全体54.660.261.361.661.859.061.465.963.267.165.759.761.8
ビジネスH66.774.374.876.575.772.774.776.476.881.580.273.675.3
シティH66.972.074.076.375.372.871.675.475.880.577.773.074.2
リゾートH51.458.457.453.854.651.056.867.256.861.560.153.756.9
旅館32.936.638.435.338.735.337.646.239.842.342.435.338.4
簡易宿所25.426.829.327.529.428.333.238.531.131.229.524.629.6

出典: 観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年 第2次速報値・推移表。単位: 客室稼働率(%)。赤字=年間最高、青字=年間最低

施設タイプ別の前年差(2025年 - 2024年)を見ると、リゾートホテルが+2.8ポイント(54.1%→56.9%)、旅館が+2.3ポイント(36.1%→38.4%)と、レジャー系施設の回復が目立ちます。ビジネスホテルは+1.6ポイント(73.7%→75.3%)で、2019年の75.2%をわずかに上回りコロナ前水準に復帰しました。

2024年の月別客室稼働率(確定値)

2024年は確定値が公表済みです。速報値と異なり回収率が高く、最も精度の高いデータです。

1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月年間
全体 50.257.259.058.758.457.360.263.061.064.664.758.759.6
ビジネスH 62.671.573.873.572.271.573.574.875.479.580.473.173.7
シティH 60.770.372.673.671.571.872.471.871.377.278.673.872.3
リゾートH 46.252.053.649.052.050.255.962.555.659.257.853.054.1
旅館 29.133.835.533.434.732.636.043.137.740.840.633.936.1
簡易宿所 21.724.625.826.729.625.532.937.932.232.229.626.729.0

出典: 観光庁「宿泊旅行統計調査」2024年確定値(2026年4月公表)。単位: 客室稼働率(%)。赤字=年間最高、青字=年間最低

施設タイプ別の特徴

ビジネスホテル ― 下期に需要が集中する

ビジネスホテルの稼働率は年間73.7%で、全タイプ中最も高い水準です。9月から11月にかけて75%〜80%に達する一方、1月は62.6%にとどまります。この構造は、下期(9月〜3月)に企業の出張・研修が集中する法人需要の季節性を反映しています。

8月は74.8%と高い数値ですが、これは法人客が減る一方で観光客が補填する夏休み効果です。法人と観光の「二重底」を持つビジネスホテルは、閑散期の底が浅い構造になっています。

シティホテル ― ビジネスHに似るが夏に谷がある

シティホテルの年間平均は72.3%で、ビジネスホテルとほぼ同水準です。しかし8月(71.8%)に微減が見られるのが特徴で、宴会・婚礼需要が夏場に落ちるためです。10月・11月の秋季婚礼シーズンには77〜78%台に達し、年間ピークを迎えます。

リゾートホテル ― 夏冬の振幅が最大

リゾートホテルは年間平均54.1%。8月の62.5%と1月の46.2%の差は16.3ポイントで、全タイプ中最大の振れ幅です。4月に49.0%まで落ちる谷も特徴的で、春休み終了後のレジャー需要の断絶がここに現れます。

ただし、スキーリゾートを含む北海道では2月が年間最高(2024年確定値で60.5%、2026年2月速報で65.0%)となり、全国平均とは逆の波形を描きます。自施設が位置するエリアの特性を把握することが重要です。

旅館 ― 年間を通じて45%を超えない

旅館の年間平均は36.1%です。年間最高の8月でも43.1%にとどまり、1月は29.1%まで落ち込みます。客室あたりの定員が多い旅館では、1〜2名利用が「客室は埋まっていても定員は埋まらない」状態を生みやすく、定員稼働率はさらに低くなります。

旅館は稼働率だけで収益力を語ることはできません。1泊2食付きの包括料金が主流で、客室単価(ADR)はビジネスホテルの2〜4倍に達するケースもあります。RevPAR(稼働率×ADR)で見れば、タイプ間の収益差は稼働率ほど大きくありません。

コロナ前(2019年)との比較

2024年の全体稼働率59.6%は、コロナ前の2019年(62.7%)に対して3.1ポイント低い水準です。ただし、施設タイプによって回復度合いは異なります。

ビジネスホテルは2019年の75.2%に対して2024年が73.7%で、差はわずか1.5ポイント。法人出張需要がほぼコロナ前に戻ったことを示しています。一方、旅館は2019年の39.3%に対して2024年が36.1%で3.2ポイント低く、国内レジャー需要の戻りが鈍いことを示唆します。

インバウンド比率の増加は注目すべき変化です。2024年の外国人延べ宿泊者数は約1.4億人泊で、2019年(1.15億人泊)を約22%上回りました。特に東京・大阪・京都のシティホテルでは、外国人比率が40%を超える月も出てきています。

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統計の読み方 ― 実務で注意すべき点

第1次速報と第2次速報の差

第1次速報は回収途上の段階で公表されるため、第2次速報で修正されることが通例です。修正幅は全国平均で±1〜2ポイント程度ですが、客室数の少ない県や特定施設タイプでは±5ポイント以上ずれることもあります。速報値で経営判断をする場合は、この修正幅をマージンとして織り込む必要があります。

「客室稼働率」と「定員稼働率」の違い

客室稼働率は「販売客室数÷販売可能客室数」、定員稼働率は「宿泊者数÷収容定員数」で算出されます。ツインルームに1名で宿泊すれば、客室稼働率は100%ですが定員稼働率は50%です。

実務的には、客室稼働率をRevPAR管理に、定員稼働率を朝食・大浴場のキャパシティ計画に使い分けるのが合理的です。

2026年の層化基準変更

2026年1月分から、施設の区分(層化)基準が「従業者数」から「客室数」に変更されました。従来は従業者10人以上が全数調査でしたが、新基準では客室20室以上が全数調査となります。

この変更により、小規模旅館や簡易宿所の推計精度が変わる可能性があります。時系列比較を行う際は、同じ基準で比較できる期間(2026年1月以降同士、または2025年12月以前同士)に揃えることを推奨します。

出典