「小麦アレルギーなんですが、朝食は大丈夫ですか?」

16時のチェックイン。家族連れのゲストが、宿泊者名簿を記入しながら声をかけてきた。

「うちの子、小麦アレルギーがあるんですが、明日の朝食ビュッフェは大丈夫でしょうか。パンとかパスタは避けているんですけど、揚げ物の衣とか、ソースに入っていることもあるので......」

フロントスタッフの中島は、一瞬言葉に詰まった。アレルギー対応は厨房の管轄だが、厨房スタッフは今、夕食の仕込みの真っ最中。「厨房に確認します」と言って電話をかけるべきか、それとも「大丈夫だと思います」と答えていいのか。

アレルギー対応は、命に関わる可能性がある問題です。フロントが「たぶん大丈夫です」と答えて、実際にアレルギー反応が出た場合、取り返しがつきません。この記事では、フロントスタッフがアレルギー申告を受けた際に「何をすべきか」「何をしてはいけないか」を明確にします。

フロントがやるべきこと:5つのステップ

ステップ1:申告内容を正確に記録する

アレルゲンの種類、重症度(「食べると蕁麻疹が出る」と「アナフィラキシーの既往がある」では対応レベルが異なる)、対象者(本人か同行者か子どもか)を確認し、記録します。口頭だけのやり取りで終わらせず、必ず文字に残してください。

ステップ2:自分で判断しない

「大丈夫だと思います」「たぶん入っていないと思います」は禁句です。フロントスタッフが食材の成分を正確に把握していることはまずありません。「厨房の責任者に確認いたします」と伝え、情報を正確に引き継ぎます。

ステップ3:厨房・レストランに伝達する

電話だけでなく、書面(アレルギー連絡票)でも伝達します。口頭伝達は忘れられるリスクがあります。特に、チェックインの時間帯と食事の提供時間帯でスタッフが入れ替わる場合、書面での引き継ぎが欠かせません。

ステップ4:ゲストに回答する

厨房から確認が取れたら、ゲストに具体的に回答します。「対応可能です」だけでなく、「どのメニューが安全か」「どのメニューに注意が必要か」を伝えられると、ゲストの安心感が違います。

ステップ5:PMSに記録する

アレルギー情報をPMSの備考欄に記録します。連泊の場合は翌日以降も情報が引き継がれるようにし、リピーターの場合は次回の予約時にも参照できるようにしておくのが理想です。

「アレルギーの程度」を軽く見ないでください。
「少しなら大丈夫」「前に食べても平気だった」とゲスト自身が言う場合でも、施設としてはアレルゲンを含む食品を提供するリスクを取るべきではありません。あくまで「含まれているかどうか」の事実を伝え、「食べるかどうか」の判断はゲストに委ねます。

アレルギー連絡票のテンプレート

アレルギー連絡票(フロント → 厨房)

【日付】      年  月  日
【ゲスト名】
【部屋番号】
【対象者】本人 / 同行者(名前:          )
【アレルゲン】
  □ 卵  □ 乳  □ 小麦  □ そば  □ 落花生
  □ えび  □ かに  □ くるみ
  □ その他(                    )
【重症度】軽度(皮膚症状)/ 中度(消化器症状)/ 重度(アナフィラキシー既往あり)
【対象食事】朝食 / 夕食 / その他(          )
【ゲストからの具体的な要望】

【フロント担当者】
【厨房確認者】              【確認日時】
  

フロントがやってはいけないこと

1. 食材の有無を推測で回答する

NG:「ビュッフェのサラダにはたぶんナッツは入っていないと思います」

「たぶん」「おそらく」は使わないでください。わからないことは「確認します」と言ってください。推測で回答してアレルギー反応が出た場合、施設の責任が問われます。

2. 情報の伝達を「後で」にする

「夕食の時間までに厨房に伝えておけばいいか」と思って後回しにすると、忘れるリスクがあります。申告を受けたら、その場で厨房に連絡してください。厨房が忙しくても、アレルギー情報の伝達は割り込んで構いません。

3. 「対応できません」で終わる

施設としてアレルギー対応が難しい場合でも、「対応できません」だけでは不親切です。「当館の厨房では完全な除去対応が難しい状況です。近隣にアレルギー対応のレストランがございますので、ご案内いたしましょうか」など、代替案を示しましょう。

特定原材料8品目を知っておく

食品表示法で表示が義務付けられている特定原材料は以下の8品目です。フロントスタッフも覚えておくべき基本知識です。

  1. 小麦
  2. そば
  3. 落花生(ピーナッツ)
  4. えび
  5. かに
  6. くるみ(2025年4月から義務化)

これに加えて、表示が推奨されている20品目(アーモンド、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン)もあります。ゲストからの申告がこれらに該当するかどうかを判断できるよう、一覧表をフロントに備えておきましょう。

ゲスト情報を事前に把握できたら、対応はもっとスムーズに

アレルギー情報を到着前に把握し、安全な食事を準備する

資料を請求する

外国人ゲストのアレルギー対応

外国人ゲストの場合、アレルゲンの名称が日本語で通じないことがあります。また、宗教上の食事制限(ハラール、コーシャ、ベジタリアンなど)をアレルギーと同列で申告されるケースもあります。

多言語アレルギーカードの活用

主要なアレルゲンのイラストと多言語名称を記載したカードをフロントに常備しておくと、言語の壁を越えて正確にアレルゲンを特定できます。ゲストに「該当するものを指さしてください」と依頼する方式が確実です。

チェックイン前にアレルギー情報を取得する仕組み

チェックイン時にアレルギー申告を受けると、厨房への伝達から確認まで時間がかかり、ゲストを待たせてしまうことがあります。特に夕食の直前にチェックインされた場合、厨房が対応できる時間が限られます。

事前チェックインシステムでは、ゲストが到着前にアレルギー情報を入力できます。フロントと厨房は到着前にこの情報を確認し、食事の準備を整えておくことが可能です。「チェックイン時に初めて聞いて慌てる」という状況がなくなり、ゲストにとっても施設にとっても安心です。

アレルギー対応は「面倒な追加業務」ではなく、ゲストの安全を守るための基本業務です。フロントが正確に情報を受け取り、確実に厨房に伝える。この単純だけれど重要な流れを、仕組みとして確立しておくことが大切です。