「1室あたり単価」で外注と自社を比較する落とし穴
外注清掃の見積もりが届くと、まず見るのは「1室あたり単価」です。自社清掃の人件費を1室あたりに割り戻して比較し、安いほうを選ぶ。この判断プロセスは一見合理的ですが、コスト以外の変数を見落としています。
100室規模のビジネスホテルで、外注単価が1室1,800円、自社清掃の1室あたりコストが1,500円だったとします。「自社のほうが300円安い」という結論は、採用コスト、教育期間、欠勤時のバックアップ体制、管理者の人件費を含めていません。逆に、外注の1,800円には品質管理の責任がどこまで含まれているかも、見積書からは読み取れません。
この記事では、コスト比較に加えて、品質管理・柔軟性・教育コスト・ゲスト対応力という4つの軸で外注と自社を整理し、両方の良いところを取るハイブリッドモデルの可能性も検討します。
コスト比較:見えにくい費用を含めて
100室ビジネスホテル(稼働率80%)の月次コスト比較例
【外注清掃】 清掃単価: 1,800円/室 x 80室/日 x 30日 = 4,320,000円/月 管理費: 施設側の外注管理担当(工数20%)= 約80,000円/月 品質管理: インスペクション人員(自社で確保)= 約150,000円/月 合計: 約4,550,000円/月 【自社清掃】 清掃スタッフ人件費: 8名 x 200,000円 = 1,600,000円/月 社会保険料等: 約480,000円/月 リーダー/管理者: 1名 x 280,000円 = 280,000円/月 採用・教育コスト(年間按分): 約120,000円/月 備品・消耗品管理: 約80,000円/月 欠勤時の派遣バックアップ: 約100,000円/月 合計: 約2,660,000円/月
この例では自社のほうがかなり安く見えます。しかし、この計算にはいくつかの前提があります。自社スタッフが8名で80室を回せるのは全員が出勤した場合。離職率が高ければ採用コストは上振れし、繁忙期に人が足りなければ結局派遣を頼むことになります。
外注の場合は、人員確保の責任が外注先に移ります。繁忙期に「人が足りません」と言い訳される心配が減る──はずですが、実際には外注先も人手不足で、品質が落ちるケースが報告されています。
コスト以外の4つの判断軸
軸1:品質管理の主導権
自社清掃の場合、品質基準の設定から教育、フィードバック、改善のサイクルをすべて自施設でコントロールできます。「今月はバスルームの排水口クレームが多いから重点的にチェックする」という判断を即座に実行に移せます。
外注の場合、品質基準の共有は可能ですが、清掃員への直接指導はできないことが多いです。フィードバックは外注先の管理者を経由するため、改善のスピードが落ちます。「伝えたのに直らない」というフラストレーションが蓄積しやすい構造です。
軸2:繁閑への柔軟性
稼働率が40%の日と95%の日で、必要な清掃員の数は倍以上違います。外注であれば、日ごとの清掃室数に応じた変動費型の支払いが可能です。自社の場合、固定人件費がかかるため、閑散期にはコスト効率が下がります。
一方で、外注先が繁忙期に十分な人員を手配できるかは保証されていません。ゴールデンウィークや年末年始に「人が確保できませんでした」と当日連絡が来るリスクは、外注固有の問題です。
軸3:教育コストと知識の蓄積
自社清掃では、新人を採用するたびに教育が必要です。清掃手順、客室タイプ別の注意点、備品の配置、インスペクション基準。一人前になるまでに2〜4週間かかり、その間は生産性が低い状態で人件費が発生します。
外注の場合、教育は外注先の責任です。ただし、「施設固有の知識」──たとえば、302号室のシャワーは水圧が弱いから事前にゲストに説明が必要、といった情報──は外注スタッフには伝わりにくいです。この種の知識は自社に蓄積されますが、外注先には流れません。
軸4:ゲスト対応力
清掃中にゲストと遭遇する場面は日常的にあります。廊下でのすれ違い、「タオルを追加してほしい」という依頼、忘れ物の発見と報告。自社スタッフであれば、施設のサービス基準に沿った対応を教育できます。
外注スタッフの場合、清掃業務以外のゲスト対応は契約範囲外とされることが多いです。悪気はなくても、ゲストへの挨拶がない、質問されても「わかりません」としか言えない、という状況が生まれます。フルサービスホテルほど、この差が目立ちます。
ハイブリッドモデルという選択肢
「外注か自社か」の二択ではなく、両方を組み合わせるアプローチがあります。コアとなる清掃チームを自社で持ち、繁忙期や欠員時に外注でカバーする方法です。
ハイブリッドの設計パターン
パターンA:フロア分担型
上層階(スイート・デラックス)は自社、下層階(スタンダード)は外注。品質への要求水準が高い客室を自社で管理し、標準化しやすい客室を外注に任せる。
パターンB:ベースライン+変動型
稼働率70%までは自社スタッフでカバー。70%を超えた分を外注に依頼。閑散期の人件費を抑えつつ、繁忙期にも対応できる。
パターンC:曜日分担型
平日は自社スタッフ中心、土日祝日は外注中心。自社スタッフのシフト管理を簡素化しつつ、週末の人員確保を外注に委ねる。
ハイブリッドの課題
ハイブリッドモデルの最大の課題は「情報の分断」です。自社スタッフが知っている情報──どの部屋がチェックアウト済みか、VIPゲストの部屋はどこか、清掃の優先順位はどうなっているか──を外注スタッフとリアルタイムで共有する仕組みがなければ、現場は混乱します。
紙の割当表やホワイトボードでは、自社と外注の両方に同じ情報を届けるのに手間がかかります。ステータスの更新も遅れます。ハイブリッドモデルが機能するかどうかは、情報共有の仕組みが整っているかどうかに大きく依存します。
判断フレームワーク:自施設に合う方式を選ぶために
判断チェックリスト
自社清掃が向いている施設: - 客室タイプが多く、タイプ別の清掃基準が細かい - ゲストとスタッフの接点をサービスの一部と位置づけている - 離職率が業界平均より低く、安定した人員を確保できている - 清掃品質を差別化要因として重視している 外注清掃が向いている施設: - 稼働率の変動が大きく、固定人件費を抑えたい - 客室タイプが均一で、清掃手順を標準化しやすい - 採用難のエリアにあり、自社での人員確保が困難 - 清掃管理に割ける管理者のリソースが限られている ハイブリッドが向いている施設: - 客室タイプに差があり、上位タイプの品質管理を手放したくない - 繁閑差が大きいが、最低限のコアチームは維持したい - 外注先との情報共有の仕組みが整っている(または整える意思がある)
コスト比較の先にある問い
外注と自社のどちらが正解かは、施設の状況によって異なります。ただし、どちらを選んでも共通する課題があります。「清掃の現場で何が起きているかを、フロントや管理者がリアルタイムで把握できるか」という問いです。
自社清掃なら管理しやすいと思われがちですが、実際には自社スタッフでも「今どの部屋が終わっているか」を正確に把握できていない施設は多いです。外注であれば、なおさらです。
外注か自社かという組織の話と、情報がどう流れるかという仕組みの話は、分けて考える必要があります。コスト比較で結論を出す前に、「いま、清掃の進捗をどうやって把握しているか」を振り返ってみてください。答えが「電話」「内線」「ホワイトボード」であれば、外注・自社の判断以前に、情報の流れを整えるほうが先かもしれません。
