同じスタンダードツイン。Aさんは25分、Bさんは45分
清掃リーダーなら、この差に心当たりがあるはずです。同じ部屋タイプ、同じチェックアウト後の状態。なのに清掃時間に20分の差が出る。1日10室を担当すれば、合計で200分──3時間以上の差になります。
「Bさんが遅いだけでは?」と思うかもしれません。しかし、時間の差をすべてスキルの問題として片付けると、本当の原因が見えなくなります。実際に現場を観察すると、スキル以外の要因が清掃時間を大きく左右していることがわかります。
原因1:スキル差──ただし、思っているほど大きくない
ベテランと新人で清掃時間に差が出るのは当然です。ベッドメイクの手際、バスルーム清掃の順序、備品チェックのスピード。経験を積めば、ひとつひとつの作業が速くなります。
しかし、スキル差による時間の差は、せいぜい5〜8分程度です。20分の差のうち、スキルで説明できるのは一部にすぎません。残りの12〜15分は、スキル以外のところで失われています。
原因2:備品・リネンの位置が定まっていない
リネン庫からシーツを取りに行く。アメニティの在庫がカートになくて、別のフロアまで取りに行く。掃除機のコードが絡まっていて、ほどくのに2分かかる。これらは清掃作業そのものではなく、「準備」と「移動」に費やされる時間です。
備品やリネンの配置が標準化されていない施設では、スタッフごとに「自分の取りに行き方」が異なります。効率的なルートを知っているベテランと、毎回探し回る新人では、作業前の時間が大きく違います。
対策のヒント
- カートの積載品目と数量を標準化する。1フロア分のリネン・アメニティをカートに積んだ状態で清掃を開始する
- リネン庫の配置を見直す。各フロアにリネン庫がない場合、最低限の補充分をフロア内に仮置きする
- カートの定位置を決める。清掃開始時にカートがどこにあるかわからない状態をなくす
原因3:前のゲストの汚れ度合いが予測できない
1泊のビジネス利用と、4泊のファミリー利用では、チェックアウト後の部屋の状態がまったく違います。バスルームの水垢の量、ゴミの量、ベッドの乱れ方。同じ「チェックアウト清掃」でも、実質的な作業量に大きな差があります。
問題は、清掃員がドアを開けるまで部屋の状態がわからないことです。「この部屋は4泊ファミリーだから時間がかかりそう」という情報が事前にあれば、割り当てを調整できます。しかし、多くの施設では、清掃員は部屋番号のリストだけを渡されて現場に向かいます。
原因4:フロア内の動線が非効率
「チェックアウト順に清掃する」「部屋番号順に清掃する」「リーダーの指示順に清掃する」──同じフロアでも、どの順番で部屋を回るかによって移動時間が変わります。
たとえば、301号室→308号室→303号室という順番で清掃すると、廊下の往復が発生します。301→302→303と隣の部屋を順にこなしたほうが移動距離は短くなりますが、302号室がまだ滞在中であれば飛ばす必要があります。
どの部屋がチェックアウト済みかの情報がリアルタイムで届いていれば、清掃員は効率的な順番を自分で判断できます。「朝の割当表をもらったきり、途中の変更は内線で確認」という運用では、動線の最適化は不可能です。
原因5:手順の「解釈」がスタッフごとに異なる
清掃マニュアルに「バスルームを清掃する」と書かれていた場合、何をどの順序でやるかの解釈が人によって違います。あるスタッフはトイレから始めてシャワーブースで終わり、別のスタッフは鏡の拭き上げから始めます。
順序の違いは、そのまま作業効率の違いになります。トイレに洗剤をかけて放置している間にシャワーブースを清掃し、最後にトイレを拭き上げる──という手順は、洗剤の浸透時間を有効に使えます。先にトイレを仕上げてからシャワーブースに移ると、この時間が無駄になります。
マニュアルに「何をやるか」しか書かれておらず、「どの順序でやるか」が書かれていないと、スタッフは自分なりの順序を編み出します。それ自体は悪いことではありませんが、結果として時間のバラつきが生まれます。
標準化のアプローチ:時間を揃えるのではなく、無駄を減らす
「全員を25分に揃える」という目標を立てると、現場は息苦しくなります。目指すべきは、スキル以外の要因で生じている無駄な時間を減らし、スタッフが清掃作業そのものに集中できる環境を整えることです。
ステップ1:時間を計測して可視化する
まず、各スタッフの清掃時間を部屋ごとに記録します。1週間分のデータがあれば、「誰が」「どの部屋タイプで」「どれくらいかかっているか」が見えます。平均値だけでなく、バラつきの幅(最速と最遅の差)を確認してください。
ステップ2:遅い部屋の原因を現場で確認する
時間がかかっている部屋について、「なぜ時間がかかったか」をスタッフにヒアリングします。「リネンが足りなかった」「前のゲストの汚れがひどかった」「備品を取りに行った」──理由の多くは、スキルではなく環境に起因しています。
ステップ3:環境要因を先に潰す
カートの積載基準を決める。フロア内のリネン補充を仕組み化する。チェックアウト情報をリアルタイムで清掃チームに共有する。これらの「環境改善」だけで、バラつきの半分は解消できます。
ステップ4:手順を「作業順序」レベルまで明文化する
「バスルーム清掃」を、「1. トイレに洗剤噴霧 → 2. シャワーブース壁面 → 3. 洗面台 → 4. 鏡 → 5. トイレ拭き上げ → 6. 床」のように順序まで記載します。ベテランの効率的な手順を観察して、それを標準手順として共有するのが最も現実的です。
バラつきの原因と対策の対応表
原因 影響時間 対策 スキル差 5〜8分 OJT + 手順の明文化 備品・リネンの位置不定 3〜5分 カート積載基準 + フロア補充 汚れ度合いの予測不可 3〜7分 宿泊情報の事前共有 フロア内動線の非効率 2〜4分 チェックアウト情報のリアルタイム共有 手順の解釈差 2〜5分 作業順序レベルのマニュアル化
時間の差は「人の問題」ではなく「仕組みの問題」
清掃時間にバラつきがあるとき、「遅い人を速くする」という方向に考えがちです。しかし、20分の差のうちスキルで説明できるのはせいぜい5〜8分。残りは、備品の配置、情報の流れ、手順の曖昧さといった「仕組み」の問題です。
人を変えるより、仕組みを整えるほうが確実で、再現性があります。まずは1週間、各部屋の清掃時間を記録することから始めてみてください。数字を見れば、どこに時間が消えているかが見えてきます。
