ROASは「初回予約の売上」だけで見ないのが鉄則
出典: ビジネスブレーン支援施設のROAS水準(2024〜2025年、複数施設平均)
ROAS(Return On Ad Spend)は「広告売上 ÷ 広告費」で計算する広告効率指標です。ホテルで陥りやすい落とし穴は、「初回予約の売上だけでROASを見て、広告を絞りすぎる」こと。リピート率・ADR・直予約比率まで含めて判断すると、一見赤字に見える広告が実は儲かっているケースがあります。本稿では、予約単価(ADR)と顧客生涯価値(LTV)を加味したROAS管理の実務を解説します。
ROASの基本式と「損益分岐ROAS」
ROAS計算の基本:
ROAS = 広告経由の売上 ÷ 広告費
ただし、実務では「損益分岐ROAS」を先に出して、それ以上の水準を目標にします。
損益分岐ROAS = 1 ÷ 粗利率
例:粗利率50%なら、ROAS 2倍がギリギリの損益分岐。「ROAS 3倍以上」が利益確保の目安になります。ホテルの場合、OTA手数料を避けて広告を使うのが目的なので、OTAの実効手数料(15〜25%)より安い水準を目指します。広告費率10〜20%に収まるROAS 5〜10倍が基本的な目標帯です。
LTV込みROASの考え方
初回予約だけでROASを見ると、リピートしやすいチャネルの評価が過小になります。以下のようにLTV込みで換算します。
| 指標 | 初回のみROAS | LTV込みROAS |
|---|---|---|
| 計算式 | 初回予約売上 ÷ 広告費 | (初回+リピート予想) ÷ 広告費 |
| リピート率30%で | 5倍 | 約6.5倍 |
| リピート率50%で | 5倍 | 約7.5倍 |
| 適用場面 | 日次・週次の改善 | 予算配分の意思決定 |
リピート予想は「獲得顧客×平均リピート回数×平均予約単価」。1年以内のリピートに絞るのが現実的。
LTV推計の方法:3層に分けて考える
ホテルのLTVは、顧客層で大きく異なります。
① 新規×一見客(LTV=初回予約単価)
リピートしない想定。広告費はADR以下に抑える。ROAS目標は高め(8倍以上)。
② 新規×リピート候補(LTV=初回+将来予約1〜2回分)
会員登録・アンケート協力・SNSフォロー等、リピートに繋がる行動をした顧客。LTVは初回の1.5〜2倍で計算。ROAS目標はやや緩める(5〜7倍)。
③ リピーター獲得済み(LTV=累計予約単価×過去実績)
既に複数回利用している顧客。会員特典メールやLINE配信で維持。広告より低コストのCRMチャネルで対応。
ホテル特有のLTV割引
他のECと違い、ホテルは「予約1回あたりの単価が高い」「リピート間隔が長い」特徴があります。そのため、LTVを計算する際は1年以内のリピートに限定する保守的設計が実務的。2年先のLTVを当て込むと、広告費の回収が遅くキャッシュフローを圧迫します。
広告種別ごとのROAS目標の違い
| 広告種別 | 損益分岐ROAS | 目標ROAS | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 指名検索リスティング | 2倍 | 15倍以上 | 自然検索食いに注意 |
| 一般検索リスティング | 2倍 | 5〜8倍 | 新規獲得の主軸 |
| メタサーチ広告 | 2倍 | 5倍以上 | OTA経由と比較 |
| リマケ | 2倍 | 10倍以上 | カニバリ検証必須 |
| SNS広告(認知系) | ― | 3〜5倍 | LTV込みで判定 |
広告種別によって役割が違うため、ROAS目標も変える。新規獲得系は低めでOK、既存顧客系は高めを目指す。
月次のROASレビュー:6ステップ
- 広告費の合計(媒体別)を集計
- 予約完了件数・売上をGA4とPMSで突合
- 広告種別ごとのROASを計算
- LTV込みROASを計算(粗い推計でOK)
- OTA経由との比較(広告費率 vs OTA実効手数料)
- 目標未達の広告を特定、配分見直し
月次でこれを回すだけで、無駄な広告費が徐々に削減できます。四半期で大きな配分見直し、年次で目標ROASの再設定、というリズムが現実的です。
まとめ:初回ROAS+LTVで見る二段階評価
ROASは「初回予約のみ」と「LTV込み」の二段階で評価します。損益分岐は粗利率から計算、目標はOTA手数料を下回る水準。広告種別ごとに目標ROASを変え、月次でレビュー・四半期で配分見直しを回します。初回ROASが高くないからと広告を絞ると、リピート収益の芽も潰します。LTVを含めた長期視点での管理が、広告費を利益に変える基本です。