売上が頭打ち、戦略をどう描き直すか

稼働は悪くないのに、利益が思うように残らない。OTAから入る予約は変わらないが、手数料に利益を削られ、平均単価は上がりにくい。人手不足で増員もままならず、来期の方針を決めかねている。あなたも、こうした夕方を今ちょうど迎えていませんか。

戦略を描き直すとき、最初にやりたいのは個別の施策を並べることではなく、いま自施設の外側で何が変わっているかを確認することです。前提が変わっているのに、過去5年と同じ枠で打ち手を選ぶと、努力した量のわりに業績が動きません。下では、変わった前提・戦略の主要4領域・組み立ての順序・見落としやすい盲点を順に見ていきます。読み終えたら、来週の経営会議で話す素材が一段はっきりするはずです。

戦略を立てる前に、何が変わっているか

過去5年で、宿泊業を取り巻く前提が同時に3つ動きました。どれか1つではなく、3つが重なって効いています。

32.6%
国内旅行者のAI活用率(宿探し)
44.9%
宿泊予約のOTA経由比率
59.0%
旅館・ホテルの非正社員 人手不足(全業種トップ)

出典: 宿研「旅行者のAI活用に関する調査2025」、日本旅館協会「令和6年度統計調査」、帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査」2025年10月

旅行者の宿探しはGoogleやOTAだけでなくAIへ広がり、宿研の2025年調査では国内旅行者の32.6%がChatGPTやGeminiを宿探しに使っています。一方で、日本旅館協会の令和6年度統計では宿泊予約の44.9%がOTA経由のままで、手数料の構造は変わっていません。さらに、帝国データバンクの2025年10月調査では旅館・ホテルの非正社員の人手不足が59.0%と全業種で最も高く、増員で解決できる前提も崩れています。

戦略を考えるときに大事なのは、これらが別々の話ではなく1つの問いに行き着く点です。限られた人手と、変わった検索の流れの中で、自施設の売上をどう作り直すか。この問いに正面から答えるのが、いま必要なホテル戦略です。

ホテル戦略の主要4領域

「ホテル戦略」とひと言で言われますが、中身は4つの領域で構成されます。多くの相談は集客から始まります。集客は入り口です。ただ、戦略はその先まで揃って初めて持ち直します。

領域 主に決めること 関わる現場
集客 誰に・どこから・いくらで来てもらうか。チャネル構成、広告、公式サイト、AI検索の見え方 マーケティング、広報
販売 料金と在庫の動かし方。OTA別の単価、プラン構成、レベニューマネジメントの設計 営業企画、RM担当
運営 現場が回る仕組み。予約・フロント・清掃の連携、システムの選び方、業務の標準化 支配人、現場リーダー
人材 採用・配置・育成・離職対策。限られた人手でどの仕事に時間を使うかの設計 人事、各部門責任者

「集客戦略」「販売戦略」と部分だけ強くしても、4領域がそろわないと数字が動きません。たとえば集客で広告費を増やしても、現場が回らず受けきれなければ口コミが下がり、来期の集客が逆に苦しくなります。料金を上げても、それに見合う運営の品質と人材の配置が追いつかなければ離脱が増えます。4領域を1枚に並べ、整合を取ることが、ホテル戦略の中身です。

「マーケティング戦略」だけでは戦略にならない

ホテル戦略と検索したとき、出てくる記事の多くはマーケティング戦略の話に寄っています。集客は分かりやすく、効果も短期で見えるので、入り口として扱いやすいからです。ただ、マーケティング戦略が指すのは4領域のうち「集客」1つで、ホテル戦略の中身は集客+販売+運営+人材の4つを並べた全体です。集客だけ強化しても、他の3領域がついてこないと業績は動きません。

集客だけを切り離すと、よくある行き止まりに入ります。広告を増やしても、料金設計が古いままだと取りこぼし、現場の運営が追いつかないと評判を落とし、人材が抜けると次の繁忙期に間に合わない。打ち手は増えるのに業績は鈍るという循環です。だからこそ、戦略を立てるときは4領域すべてを並べ、どこから手をつけるかを順序で決める必要があります。

戦略を組み立てる順序

4領域すべてを一度に変えるのは、現場では無理があります。下の順序で進めると土台から順に固まり、後の打ち手の効きが上がります。経営会議でこの順番に1枚ずつ資料を作っていくと、議論が散らかりません。

  1. 現在地を測る自施設の外からの見え方(AI検索・Google・OTA順位)と、内側の数字(OCC・ADR・RevPAR・チャネル別比率・口コミ平均)を1枚にまとめる。ここで全体像を共有しないと、続く議論が個別案件の押し付け合いになる。
  2. 5年後の輪郭を決める規模、客層、平均単価、OTA依存度、人員構成のおおまかな姿を1枚に書く。承継・M&A・新棟・廃業も選択肢に入れて検討する。輪郭がないと、毎月の打ち手が場当たりになる。
  3. 4領域の優先順位を決める5年後の姿から逆算して、集客・販売・運営・人材のどれから手を入れるかを決める。たとえば「OTA依存を下げる」が輪郭なら、運営(システム連携)と集客(公式サイト・AI検索)が先、販売は中盤、人材は通底。
  4. 各領域に半年単位の打ち手を3つだけ領域ごとに10個書きたくなるが、現場が動かせるのは3つまで。多すぎる施策は道半ばで止まる。半年で1つ完了させるペースが定着の最小単位。
  5. 四半期ごとに戻って測る1で決めた現在地の指標を3か月後にもう一度測り、輪郭からどれだけ近づいたかを確認する。ずれていたら打ち手でなく順序を見直す。順序を直さずに打ち手だけ追加すると、5年後にいまと同じ位置にいる。

共通するのは、道具やキャンペーンより、順序と全体像を先に固める点です。順序が間違っていると、どんな良いツールも効果が出ません。逆に順序が合っていれば、現場の打ち手は思っていたより身軽に進みます。

順序を決めるためにも、まず外からの見え方を1枚に

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見落としやすい盲点 — AI検索でどう見えているか

ホテル戦略を立てるとき、現場の数字(OCC・ADR・口コミ)は手元で取れます。一方で、外からの見え方は外で測らないと分かりません。とくに、旅行者がChatGPTやGeminiに「箱根で静かに過ごせる宿は」と尋ねたときに自施設がどう挙がっているかは、社内のどの数字を見ても出てきません。

宿研が2026年1月に公表した調査では、AIに宿泊先を相談した338人のうち、AIが挙げた宿に実際に行ったのは47.0%でした。半数強は、AIに名前が出ても選ばれていないということです。理由の上位はクチコミ・公式情報・写真の不足で、「AIの提案に誤りがありそう」は2.2%にとどまります。AIが推薦してくれた後、確認に来たお客様の前で情報が薄いと離れていく。AIに見つけてもらえるかと、見つけられた後に選ばれるかは別の問題で、両方が戦略の論点です。

AIが提案した宿を選ばなかった理由 クチコミ・レビューの不安 35.4% 情報が少なく不安 26.1% 写真・動画が少ない 17.3% AIの提案に誤りがありそう 2.2% 上位は施設側の情報・クチコミ不足。AIの精度への不安は最下位

AIが宿を提案しても、確認先の情報が薄いと選ばれにくい

出典: 宿研「旅行計画での生成AI活用実態調査」2026年1月(AI提案の宿を見送った理由、複数回答 n=226)

裏返すと、ここは打ち手のある領域です。AIが評価するのはOTAのドメインの強さではなく、個々の施設情報の具体性と一貫性です。OTAの上位を取りにいくよりも、個別の施設が直接勝ちやすい新しいチャネルとも言えます。Grand View Researchの予測では、旅行AIの市場規模は2030年に138.7億ドルに達するとされています。土俵は今後さらに広がるため、戦略の盲点として早めに織り込んでおく価値があります。

承継・M&A・廃業も戦略のうち

5年後の輪郭を描くとき、続ける以外の選択肢も同じ机に並べておきます。後継者がいない、設備投資が重い、人材確保のめどが立たない場合は、事業承継・M&A・縮小再生・廃業も含めて検討の俎上に上げます。続ける前提を一度外して、選択肢全部を並べてから「やはり続ける」と決めたほうが、その後の打ち手にも腰が据わります。

判断軸については、ホテル経営の重い判断 5パターンで M&A・事業承継・廃業・撤退・縮小再生の進め方をまとめています。重い判断ほど早めに材料を並べておくと、関係者との議論も静かに進みます。

戦略を実行に移すときの順番

戦略が一枚にまとまったら、実行は4領域のうち効きやすい順に手をつけます。経験上、効きが早いのは順に「運営の手数を減らす」「集客の見え方を整える」「販売の単価を上げる」「人材の配置を見直す」です。理由は単純で、運営の手数が減らないと、他の打ち手に割く時間が現場に残らないからです。

各論は別記事でも扱っています。集客の組み立て直しはホテル集客方法2025年版で、現場の業務を順に削る話はホテルDXは何から手をつけるかで取り上げています。外部の相談先を入れる場合の見極めはホテルコンサルタントに相談する前にを参考にしてください。

まず、戦略の土台になる現在地を測る

4領域・5つの順序・盲点と話を進めてきましたが、すべての土台は1番目の「現在地を測る」です。OCC・ADR・口コミ平均は手元のシステムで取れますが、AI検索でどう見えているかは外から測る道具がないと出てきません。ここが空白のまま戦略を組むと、来期も「集客が伸び悩んだ」「現場が回らなかった」と振り返ることになります。

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