温泉旅館は「体験したいけど不安」な場所
訪日外国人にとって、温泉旅館は日本旅行のハイライトのひとつです。畳の部屋、懐石料理、温泉 -- 日本でしかできない体験を求めて、多くの外国人旅行者が温泉旅館を選んでいます。
しかし同時に、「何をすればいいかわからない」という不安を抱えている旅行者も多いのが実情です。そして、その不安が解消されないまま宿泊した場合、「体験は素晴らしかったが、不便だった」という口コミにつながります。
出典: JNTO「訪日外客統計」(2025年)、観光庁「宿泊旅行統計調査」(2025年)、JTB総合研究所「インバウンド宿泊行動調査」(2024年)
外国人ゲストが困る7つのポイント
1. 温泉のマナーがわからない
「裸で入浴すること」「かけ湯をすること」「タオルを湯船に入れないこと」「入浴前に体を洗うこと」。日本人にとっては常識でも、外国人ゲストにとっては初めて知るルールです。特に、裸で他人と入浴する文化がない国からの旅行者にとって、この心理的ハードルは非常に高いものです。
対策として、以下を準備してください。
- 脱衣所に多言語(最低限、英語・中国語簡体字・韓国語)のイラスト付きマナーガイドを掲示
- チェックイン時に温泉の利用方法を記載したカードを配布(QRコードで動画解説に誘導するとなお良い)
- 貸切風呂がある場合は、外国人ゲストに積極的に案内する
2. 食事の内容がわからない
懐石料理は日本の食文化の精華ですが、料理名が日本語のみで、何を食べているのかわからないという声が非常に多くあります。「先付」「向付」「焚合」といった料理名は、英訳しても伝わりにくい概念です。
- 各料理の英語名と簡単な説明を記載したメニューカードを用意する
- 主要な食材をイラストまたは写真で示す(特にアレルギー情報との関連で重要)
- 仲居が英語での簡単な料理説明ができるよう、定型フレーズ集を準備する
3. 館内表示が日本語のみ
「大浴場」「男湯」「女湯」「食事処」「非常口」。これらの表示が日本語のみの場合、外国人ゲストは館内で迷います。特に夜間、大浴場に行こうとして迷う体験は、口コミでネガティブに言及されることが多いポイントです。
- 主要な館内表示を最低限英語で併記する
- 客室に英語の館内マップを設置する
- エレベーター内に各階の施設を英語で表示する
4. 決済手段が限られている
現金のみの旅館は、外国人ゲストにとって大きな障壁です。クレジットカードに対応していても、海外発行カードが使えない端末を使用している施設もあります。
Visa、Mastercard、JCBのクレジットカード、Apple Pay、Google Pay。中国からのゲストが多い地域ではAlipayとWeChat Payも検討してください。キャッシュレス決済の導入コストは月額数千円程度ですが、対応していないことで失う予約は月額数万〜数十万円に相当します。
5. アレルギー・食事制限への対応
ベジタリアン、ヴィーガン、ハラール、グルテンフリー、乳製品アレルギー。食事制限は国や宗教によって多様であり、予約時に確認されないまま当日を迎えると、「食べられるものがなかった」という深刻なクレームにつながります。
- 予約確認メールにアレルギー・食事制限の確認欄を設ける
- 対応できる範囲を事前に明示する(「完全なハラール対応はできませんが、豚肉・アルコールを使用しないメニューは提供可能です」など)
- 対応できない場合は、近隣で対応可能な飲食店の情報を提供する
6. Wi-Fiの品質
外国人ゲストにとってWi-Fiは必須のインフラです。特に温泉旅館は山間部に位置することが多く、モバイル通信が不安定な地域では、館内Wi-Fiが唯一の通信手段になります。接続方法がわかりにくい、速度が遅い、客室で電波が届かないという問題は、口コミ評価を確実に下げます。
- 客室にWi-Fiのパスワードを英語で明記したカードを設置する
- 客室内で安定した速度が出るようAPを配置する
- 接続に問題がある場合の問い合わせ先(フロントの内線番号など)を英語で案内する
7. 予約導線が日本語のみ
公式サイトが日本語のみの場合、外国人旅行者はOTA経由でしか予約できません。OTA経由の予約は手数料が発生するため、直予約と比べて施設の利益が減ります。さらに、公式サイトに英語ページがないと、旅行前に施設の詳細情報を得る手段が限られ、予約を躊躇する原因になります。
対応状況チェックリスト
以下のチェックリストで、自施設のインバウンド対応状況を確認してください。
- 温泉マナーの多言語ガイドを脱衣所に掲示している
- 食事メニューの英語版(最低限)を用意している
- アレルギー・食事制限を予約時に確認する仕組みがある
- 館内の主要表示が英語で併記されている
- 客室にWi-Fi接続方法を英語で案内している
- Visa・Mastercard(海外発行カード含む)で決済できる
- 公式サイトに英語ページがある
- Booking.comやExpediaなど英語圏OTAに掲載している
- Googleビジネスプロフィールの英語情報が最新
- チェックイン時に英語で基本的な案内ができるスタッフがいる
インバウンド対応は「コスト」ではなく「投資」
上記の対応はいずれも、大規模な設備投資を伴うものではありません。多言語ガイドの作成、英語メニューの用意、キャッシュレス端末の導入。個々の費用は数万〜数十万円程度です。
一方で、インバウンドゲストの客単価は国内ゲストと比べて高い傾向にあります。特に温泉旅館の場合、1泊2食付きの懐石料理込みの宿泊体験は、外国人旅行者にとって高い付加価値があり、単価を維持しやすい市場です。
AI検索とインバウンド集客の関係
AI検索エンジンは多言語で機能します。英語で「best onsen ryokan near Tokyo for first-time visitors」と質問すれば、ChatGPTやGeminiは具体的な施設名を推薦します。この推薦に選ばれるかどうかは、施設の英語での情報発信量に大きく左右されます。
公式サイトに英語ページがある施設、英語の口コミが充実している施設、Googleビジネスプロフィールに英語の情報が整備されている施設は、AI検索で推薦されやすくなります。つまり、インバウンド対応のために整備する英語の情報は、そのままAI検索対策にもなるのです。
温泉旅館のインバウンド対応は、目の前のゲスト満足度を上げると同時に、AI検索という新しい集客チャネルでの競争力を築く投資でもあります。まずはチェックリストで自施設の現状を確認し、できるところから着手してください。
