「売上が減っている」だけでは原因は見えない

「前年比で売上が落ちている」。この事実を目の前にしたとき、多くの施設が「値下げしよう」「広告を増やそう」と反射的な対策に走ります。しかし、売上減少の原因を正確に特定しないまま対策を打っても、効果は出ないどころか、状況を悪化させるリスクがあります。

宿泊施設の売上減少には複数の要因が絡んでいることがほとんどです。まずは「どこで、なぜ減っているのか」を構造的に分析することから始めてください。

約3割
前年比売上減の宿泊事業者
62%
売上減の主因を「稼働率低下」と回答
38%
売上減の主因を「単価低下」と回答

出典: 帝国データバンク「宿泊業の経営動向調査」(2025年)

売上分解の基本フレームワーク

宿泊施設の売上は、以下のシンプルな式で分解できます。

客室売上 = 販売可能客室数 × 稼働率(OCC) × 平均客室単価(ADR)

この3つの要素のどれが下がっているかで、打つべき対策は異なります。さらに、「RevPAR(販売可能客室1室あたりの売上)= 稼働率 × ADR」という指標で総合的な収益力を把握します。

OCC
稼働率
予約数 / 販売可能客室数
ADR
平均客室単価
客室売上 / 販売客室数
RevPAR
客室あたり売上
OCC × ADR

ケース1: 稼働率が下がっている場合

稼働率の低下は「予約が取れていない」ことを意味します。原因を絞り込むために、以下の切り口で分析してください。

ケース2: ADR(平均客室単価)が下がっている場合

ADRの低下は「単価が取れていない」ことを意味します。以下を確認してください。

ケース3: 両方が下がっている場合

稼働率とADRが同時に下がっている場合は、構造的な問題を疑う必要があります。エリア全体の需要減退、競合施設の新規参入、施設の老朽化による競争力低下など、より根本的な要因を検討してください。

チャネル別の分析

売上の全体像を把握したら、次にチャネル別の分析に進みます。

分析1: チャネル別の売上構成比と前年比較

じゃらん、楽天トラベル、Booking.com、Expedia、自社サイト、電話・直接予約など、チャネルごとの売上と前年比を算出します。特定のチャネルだけが大幅に減少している場合は、そのチャネル固有の問題(掲載順位の下落、口コミスコアの悪化、料金競争力の低下など)を調査します。

分析2: チャネル別のADRとキャンセル率

チャネルごとにADRとキャンセル率を比較します。OTA経由のADRは手数料控除後の「ネットADR」で比較してください。ネットADRが低く、キャンセル率も高いチャネルは、売上への貢献度が見かけより低い可能性があります。

分析3: 新規 vs リピーターの比率変化

リピーター比率が下がっている場合は、サービス品質やゲスト体験に問題がある可能性があります。逆にリピーター比率が維持されているのに全体の売上が減っている場合は、新規集客力の低下が原因です。

セグメント別の分析

宿泊客のセグメント(客層)別に分析することで、さらに具体的な打ち手が見えてきます。

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回復アクション

分析結果に基づいて、具体的な回復アクションを実行します。重要なのは、分析で特定した原因に対応するアクションだけを実行することです。原因が特定できていないのに「とりあえず値下げ」「とりあえずOTAにプロモーション」は避けてください。

料金戦略の見直し

チャネルミックスの最適化

新規集客チャネルの開拓

既存のOTAとSEOだけに頼る集客では、構造的な売上減少を食い止めることが難しくなっています。新たな集客チャネルの開拓が必要です。

旅行者の検索行動は変化している
2024年以降、ChatGPT、Gemini、PerplexityなどのAI検索エンジンで宿泊施設を検索する旅行者が増加しています。AI検索では、OTAの掲載順位やGoogle検索のSEO順位とは独立した基準で施設が推薦されます。OTAやSEOで上位に表示されなくても、AI検索で推薦される可能性があるという点で、既存チャネルの不調を補完する新しい手段になり得ます。

売上回復のロードマップ

売上回復は短期施策と中長期施策を並行して進める必要があります。

短期(1〜3か月)

中期(3〜6か月)

長期(6か月〜1年)

売上の前年比減少は、原因を正しく分析すれば打つべき手が見えてきます。「なんとなく不調」で終わらせず、データに基づいた分析と、原因に対応した施策の実行を徹底してください。そして、既存チャネル(OTA、SEO)だけに頼る集客構造の脆弱さを認識し、AI検索という新しいチャネルも含めた多面的な集客体制の構築を検討することをお勧めします。