「アクセス数は見ているが、予約につながっているか分からない」
ホテルの公式サイトを運営していれば、何かしらのアクセス解析ツールは導入済みのはずです。しかし、実際に「どの流入元から来た人が予約に至っているか」「デバイス別の予約完了率に差はあるか」を把握できている施設は多くありません。
Googleアナリティクス4(GA4)は、2023年7月に旧バージョン(ユニバーサルアナリティクス)から完全移行されました。しかし、移行時にとりあえず設定しただけで、ホテル運営に必要な指標を正しく取れていないケースが非常に多いのが実情です。
出典: Google「中小ビジネスのアナリティクス活用実態調査」(2024年)、観光庁「宿泊施設デジタル化推進調査」(2024年)
38年にわたり宿泊施設のシステム導入を支援してきた経験から言えば、データを「見ている」と「活用できている」の間には大きな溝があります。本稿では、ホテルの公式サイトに特化したGA4の設定手順と、実際に見るべき指標を具体的に解説します。
GA4の初期設定 -- ホテルサイトに必要な5ステップ
GA4のアカウント作成自体はGoogleの案内に従えば完了します。ここでは、ホテル公式サイトで「使える分析」を行うために必要な設定を、優先順位の高い順に解説します。
ステップ1: GA4プロパティの作成とタグ設置
Googleアナリティクスの管理画面から新しいGA4プロパティを作成し、測定IDを取得します。公式サイトの全ページにGA4タグを設置してください。WordPressであればプラグイン(Site Kit by Google等)で設置可能です。自社開発サイトの場合は、headタグ内にgtag.jsを直接記述するか、Googleタグマネージャー(GTM)経由で設置します。GTM経由が推奨です。タグの設置後、リアルタイムレポートで自分のアクセスが計測されていることを確認してください。
ステップ2: コンバージョンイベントの設定
ホテルサイトで最も重要なコンバージョンは「予約完了」です。予約完了ページ(サンクスページ)のURLに基づいてイベントを作成し、コンバージョンとしてマークします。GA4の管理画面「イベント」から、page_viewイベントの条件に予約完了ページのURLを指定して新しいイベントを作成してください。例えば、予約完了ページが「/reservation/complete」であれば、page_locationパラメータにこの文字列を含む条件でイベントを設定します。
ステップ3: 内部トラフィックの除外
フロントスタッフや予約担当者が日常的に公式サイトを閲覧していると、データが歪みます。GA4の管理画面「データストリーム」から内部トラフィックのフィルタを設定し、施設のIPアドレスを除外してください。固定IPがない場合でも、GTMと組み合わせてスタッフ用のCookieを発行し、除外する方法があります。
ステップ4: 流入元の分類設定(チャネルグループ)
GA4はデフォルトでも流入元を分類しますが、ホテルサイト特有の流入元(OTAからのリンク、メタサーチ経由、Googleビジネスプロフィール経由など)を正確に識別するためには、UTMパラメータの運用ルールを決める必要があります。メルマガ、SNS投稿、広告ごとにUTMパラメータを統一的に付与するルールを策定してください。
ステップ5: Googleサーチコンソールとの連携
GA4とGoogleサーチコンソールを連携させることで、「どんな検索キーワードで公式サイトに流入しているか」をGA4のレポート上で確認できるようになります。GA4の管理画面「サービスとのリンク」からサーチコンソールを選択し、同じGoogleアカウントで認証済みのプロパティを紐づけてください。
ホテルサイトで見るべき5つの指標
GA4には膨大な指標がありますが、ホテルの公式サイト運営において優先的に確認すべき指標は5つに絞られます。毎週これらを確認するだけでも、データに基づいた判断が可能になります。
1. 予約完了率(コンバージョン率)
公式サイトを訪問したユーザーのうち、予約完了に至った割合です。一般的なホテル公式サイトの予約完了率は1〜3%とされています。この数値が低い場合、予約導線(ボタンの配置、フォームの入力項目数、表示速度)に問題がある可能性があります。
GA4の「レポート」から「コンバージョン」を選択し、ステップ2で設定したコンバージョンイベントの発生数をセッション数で割ることで算出できます。月次の推移を追うことで、施策の効果を客観的に評価できます。
2. 流入元別のコンバージョン率
全体の予約完了率だけでなく、流入元(チャネル)ごとのコンバージョン率を比較することが重要です。「集客」レポートで確認できます。
- Organic Search(自然検索) -- Googleなどの検索エンジン経由。SEO施策の効果を測定
- Direct(直接流入) -- URLの直接入力やブックマーク。リピーター比率の参考指標
- Referral(参照元) -- 他サイトからのリンク。OTAや口コミサイトからの流入を含む
- Paid Search(有料検索) -- Google広告などのリスティング広告経由
- Social(SNS) -- Instagram、Facebook等のSNS経由
流入元ごとにコンバージョン率が大きく異なる場合、コンバージョン率の高い流入元に予算やリソースを集中させる判断材料になります。
3. デバイス別の行動データ
ホテル公式サイトの訪問者は、スマートフォンからのアクセスが60〜75%を占めるのが一般的です。しかし、コンバージョン率はPC経由の方が高い傾向があります。「テクノロジー」レポートのデバイスカテゴリで確認してください。
スマートフォンのコンバージョン率がPC比で著しく低い場合、モバイルでの予約導線に問題がある可能性が高いです。予約フォームの入力項目が多すぎる、ボタンが小さい、ページの表示速度が遅いなどの原因が考えられます。
4. ページ別のエンゲージメント
GA4では「エンゲージメント時間」という指標で、ユーザーが各ページにどれだけ滞在したかを確認できます。「ページとスクリーン」レポートで、各ページの閲覧数・エンゲージメント時間・直帰率を確認してください。
客室紹介ページのエンゲージメント時間が短い場合、写真や情報が不足している可能性があります。アクセスプページの離脱率が高い場合、地図の表示やアクセス情報の記載に改善の余地があるかもしれません。
5. 予約フォームの離脱ポイント
予約ページまで到達したものの予約を完了しなかったユーザーの行動を追跡することは、直予約率向上の鍵です。GA4のファネルレポート(「探索」機能)を使い、予約ページ閲覧 → 日付選択 → 個人情報入力 → 予約完了の各ステップでの離脱率を確認してください。
予約導線のどのステップで離脱が多いかを特定できれば、改善すべきポイントが明確になります。日付選択で離脱が多ければ空室カレンダーの使い勝手の問題、個人情報入力で離脱が多ければフォームの項目数や入力のしやすさの問題です。
GA4で見落としがちな3つのポイント
クロスドメイントラッキングの設定
公式サイトのドメインと予約エンジンのドメインが異なる場合(例: 公式サイトがhotel-example.comで予約エンジンがreserve.example-booking.comの場合)、クロスドメイントラッキングを設定しないとユーザーの行動が分断されます。予約エンジンへの遷移が「新しい訪問」として記録され、流入元の情報が失われるため、どのチャネルから来たユーザーが予約したのかが分からなくなります。
GA4の管理画面「データストリーム」の「タグ設定」から、予約エンジンのドメインをクロスドメイン設定に追加してください。
イベントの上限に注意
GA4ではプロパティあたり500個のイベントを作成できますが、パラメータ数に制限があります(イベントあたり25個)。無計画にイベントを増やすと、重要なデータが取得できなくなる場合があります。ホテルサイトに必要なカスタムイベントは、予約完了、資料請求、電話タップ、プラン詳細閲覧の4〜5種類に絞ることを推奨します。
データ保持期間の変更
GA4のデフォルトのデータ保持期間は2か月です。宿泊業は季節変動が大きいため、前年同月比較が必須です。管理画面「データ設定」からデータ保持期間を14か月に変更してください。これを設定しないと、昨年の同時期との比較ができません。
GA4レポートの確認を習慣化する
GA4の設定が完了しても、定期的に確認しなければ意味がありません。宿泊施設の運営において、以下の頻度でレポートを確認することを推奨します。
- 毎週 -- 予約完了数、コンバージョン率、流入元別セッション数
- 毎月 -- デバイス別コンバージョン率、ページ別エンゲージメント、前月比・前年同月比
- 四半期 -- ファネル分析(予約導線の離脱ポイント)、流入元別のROI評価
GA4の「ライブラリ」機能を使い、上記の指標をまとめたカスタムレポートを作成しておくと、確認の手間を大幅に削減できます。毎回探索画面を操作する必要がなくなり、担当者が変わっても同じ観点でデータを確認できます。
GA4は「Googleの検索結果→公式サイト」という従来の導線は正確に追跡できますが、ChatGPTやGeminiなどのAI検索エンジンからの流入は、多くの場合「Direct」や「Referral(参照元不明)」に分類されます。AI検索経由の来訪者が増えているにもかかわらず、GA4上では可視化できていない施設が大半です。
アクセス解析の先にあるもの -- 流入元の変化に対応する
GA4を正しく設定し、データに基づいた公式サイト改善を行うことは、直予約率向上の基盤です。しかし、その分析対象となる「流入元」自体が変化していることにも目を向ける必要があります。
旅行者の検索行動は、Google検索一本から、AI検索エンジンとの併用へと移行しつつあります。「箱根で露天風呂がある宿」とChatGPTに聞き、回答に出てきた施設の公式サイトを訪問する。この流れは、GA4の流入元レポートでは「Direct」としか表示されません。
つまり、GA4を使いこなすことは必須条件ですが、GA4だけではカバーできない集客チャネルが生まれているということです。AI検索エンジンが御施設をどのように認識し、旅行者に推薦しているか。この情報を把握することが、次のステップになります。
GA4での分析を基盤に据えつつ、AI検索という新しい流入元を追跡し、最適化する。この両輪で取り組むことが、これからの公式サイト集客には不可欠です。